【防衛株】三菱重工・川崎重工・IHIの決算を分析する。

決算

5月上旬から中旬にかけて、重工大手3社、三菱重工・川崎重工・IHIの決算が出揃いました。

防衛費の増額、地政学リスクの高まり、航空機需要の回復。今、最も時流に乗っているセクターのひとつがこの重工・防衛分野です。3社の株価も過去1〜2年で大きく上昇してきました。

決算の中身を先に言うと、3社とも過去最高益。しかも3社とも来期も最高益を見込む見通しです。文句なしの好決算。

ところが決算後の株価の反応は3社で見事に分かれました。ある会社は好決算なのに下落、ある会社は急騰してから失速、ある会社は地味な反応。

「最高益なのに、なぜ株価はバラバラなのか」

今回はこの謎を入り口に、決算分析の中でも一段深い話をしていきます。決算の数字と株価は必ずしもイコールではない。その理由がこの3社にくっきり表れています。

1. まず3社の実績を並べる

26年3月期の実績を並べます。

銘柄純利益前期比
三菱重工(7011)3,321億円+35.3%
川崎重工(7012)1,081億円+22.9%
IHI(7013)1,609億円+42.8%

3社とも大幅増益です。

伸び率トップはIHIの+42.8%。規模トップは三菱重工で純利益3,321億円。川崎重工も+22.9%と立派な数字です。

なぜ3社揃って好調なのか。理由は、業界全体に効く強力な追い風が複数吹いているからです。

ひとつは防衛です。日本政府は防衛費をGDP比2%に引き上げる方針を進めていて、防衛装備品の需要が拡大しています。3社はいずれも防衛事業を手がけており、この恩恵を直接受けています。

もうひとつは航空機です。コロナ後の旅客需要回復で、民間航空機エンジンの整備(アフターマーケット)需要が伸びています。特に三菱重工とIHIは航空エンジン事業が強く、ここが収益を押し上げました。

さらにエネルギー。データセンタの拡大などで電力需要が伸び、発電設備(ガスタービンなど)の需要も堅調です。

防衛・航空・エネルギー。3つの追い風が同時に吹いた、というのが今期の構図です。

2. 来期予想も3社揃って最高益見通し

決算で本当に大事なのは実績よりも来期予想です。株価は「終わった1年」ではなく「次の1年」を織り込んで動くからです。

3社の来期予想を並べます。

銘柄27/3期 予想内容
三菱重工純利益3,800億円(+14.4%)4期連続最高益
川崎重工純利益1,100億円(+1.7%)3期連続最高益
IHI純利益1,650億円(+2.5%)/営業利益2,400億円(+45.0%)3期連続最高益

3社とも来期も最高益を見込んでいます。ここまで聞くと、「3社とも完璧じゃないか。じゃあ3社とも株価は上がったんだろう」と思いますよね。

ところが、そうはならなかった。ここが今回の一番面白いところです。

3. 「好決算」なのに株価の反応が分かれた

決算後の株価の動きは、こうでした。

  • 三菱重工:好決算なのに下落(決算翌日マイナス約2%)
  • IHI:急騰したあと、引けにかけて失速
  • 川崎重工:地味な反応

過去最高益で、来期も最高益見通し。なのに、なぜこうなったのか。

実は、株価が動く理由は「業績の良し悪し」だけではありません。今回の3社はそれぞれ違う「業績以外の要因」で動いています。順番に見ていきます。

4. 三菱重工:好決算が「すでに株価に入っていた」

三菱重工の決算は、業績だけ見れば文句のつけようがありません。4期連続の最高益、来期も最高益見通し。

それでも株価が下がったのは「期待が高すぎた」からです。

ここで重要になるのが、PER(株価収益率)という指標です。PERは株価が1株あたり利益の何倍まで買われているかを示す数字。これが高いほど、「将来の成長がすでに株価に織り込まれている」ことを意味します。

決算時点の三菱重工のPERは約55倍。これは重工セクターの中で突出して高い水準です。参考までに川崎重工は約31倍、IHIは約18倍でした。

PER55倍というのは「この会社はこれからも大きく成長する」という期待が、株価にぎっしり詰まっている状態です。

こうなると、よほどのサプライズ、つまり市場の予想をはるかに超える数字を出さない限り、株価は上がりにくい。今回の三菱重工は「市場の高い期待どおり」の好決算でしたが「期待を超える」ほどではなかった。だから「good newsはすでに知っていた」とばかりに利益確定の売りが出た、という流れです。

これは決算分析でよくある現象です。業績が良いことと株価が上がることは、必ずしもイコールではない。すでに株価がその好業績を織り込んでいたら好決算が出ても株価は動かない、あるいは下がることすらある。

「良い決算で売られる」という一見おかしな現象は、この「期待の織り込み」で説明できます。

5. IHI:急騰したのに失速した「利益の質」の問題

IHIはもっと劇的でした。

来期の営業利益予想が前期比+45.0%。この数字が出た瞬間、株価は急騰しました。一時、前日比9%高まで買われています。

ところが、引けにかけて急速に上げ幅を縮め、終値はほぼ横ばいまで戻ってしまった。なぜか?

理由は2つあります。

ひとつは「利益の質」の問題です。IHIの来期計画には約393億円の不動産売却益が含まれています。これは一過性の利益、つまり来期だけの特別な利益です。本業で稼いだ利益ではありません。

営業利益+45%という派手な数字の中身を精査すると、その一部は「本業の成長」ではなく「資産の売却」によるもの。市場の冷静な投資家たちは、ここを見抜いて「本業の実力はそこまでではないかもしれない」と警戒した。これが上昇一服の一因です。

ただ、ここは公平に見る必要があります。前期も事業譲渡益などの特別利益がありましたが、それらを除いた実質ベースでも、IHIの本業(航空エンジンや防衛)は着実に成長しています。一過性利益があるからといって、本業がダメなわけではない。ここは誤解しないようにしたい点です。

もうひとつは需給の問題です。決算前にIHIの大口投資家(海外運用会社)が保有比率を引き下げていたことが判明していました。大株主が売っていると、株価の上値は重くなりやすい。この需給の悪化も急騰後の失速につながりました。

IHIのケースが教えてくれるのは、「利益の数字そのものだけでなく、その利益の中身(質)を見る」ことの大切さです。同じ+45%でも、本業で稼いだ+45%と資産売却を含む+45%では、評価がまったく変わってきます。

6. 川崎重工:堅実だが、伸びしろの見せ方が地味

川崎重工は、3社の中では最も反応が地味でした。

実績は純利益+22.9%と立派です。ただ、来期予想が純利益+1.7%と伸びが小さい。三菱重工の+14.4%と比べると、見劣りします。

川崎重工は、航空宇宙、鉄道車両、エネルギー、ロボット、二輪車(パワースポーツ)と、事業の幅が広いのが特徴です。この多角化は安定性につながる一方で、「どの事業で大きく伸びるのか」が分かりにくいという面もあります。

特に二輪車などのパワースポーツ事業が減益だったことが、全体の伸びを抑えました。防衛や航空が好調でも、他の事業の弱さがそれを部分的に相殺してしまう。これが「総合重機」の難しさでもあります。

ただ、川崎重工はPERが約31倍と三菱重工ほど期待が過熱していません。今期から株式分割も実施して、個人投資家が買いやすい環境を整えています。派手さはないけれど堅実に最高益を更新し続けている銘柄、というのが川崎重工の位置づけです。

7. 3社のポジションを整理する

決算と株価の反応を踏まえて、3社のポジションを整理します。

三菱重工:実力No.1、ただし期待も最大

規模・収益力ともに3社のトップ。防衛・航空・エネルギーすべてで強い、重工セクターの王者です。

ただし、PER55倍という高い期待がすでに株価に織り込まれている。業績への信頼は厚いぶん、ちょっとした期待外れで株価が振れやすい。「good newsで売られる」局面に入っている銘柄です。新規でエントリーするには、株価の位置をよく見たいところ。

IHI:成長性は高い、ただし利益の中身を見る必要あり

営業利益+45%という来期予想のインパクトは3社で最大。航空エンジンと防衛という成長領域に強みを持っています。ROE(自己資本利益率)も25%超と、資本効率では3社で最も高い。

一方で、来期計画に一過性の不動産売却益が含まれている点、大口投資家の動向には注意が必要。数字の派手さに飛びつくのではなく、本業の成長がどれだけ続くかを見極めたい銘柄です。

川崎重工:堅実な多角化企業、過熱感は最も低い

事業の幅が広く、安定感がある。来期の伸びは小さめだが、PERは3社で最も穏当で、期待の過熱感は低い。

派手さはないが、着実に最高益を更新し続けている。株式分割で個人も買いやすくなった。「地味だが堅い」を取るなら、選択肢に入る銘柄です。

8. 今回の決算から学べること

重工3社の決算を通じて、決算分析の重要なポイントが3つ見えてきます。

教訓1:「良い決算」と「株が上がる」はイコールではない

三菱重工が典型でした。4期連続最高益という完璧な決算でも、その好業績がすでに株価に織り込まれていれば、株価は上がらない、むしろ下がることもある。

株価が動くかどうかは、「決算が市場の期待をどれだけ超えたか」で決まります。決算の絶対的な良し悪しではなく、「期待との差」を見る。これが決算分析の核心です。

教訓2:PER(期待の高さ)を必ずチェックする

同じ好決算でもPER55倍の三菱重工とPER18倍のIHIでは、株価の反応がまったく違います。

PERが高い銘柄は、すでに大きな期待が織り込まれているので、好決算でも反応が鈍い。PERが低い銘柄は期待が控えめなぶん、好決算で見直されやすい。決算を見るときは、必ずその銘柄のPERもセットで確認する習慣をつけたいところです。

教訓3:利益の「質」を見る

IHIの+45%のように、派手な数字の中身に一過性の利益が含まれていることがあります。本業で稼いだ利益なのか、資産売却などの一時的な利益なのか。

利益の「量」だけでなく「質」を見る。これができると決算の数字に振り回されずに企業の本当の実力を見極められるようになります。

まとめ

重工3社の決算で見えてきたのは、「過去最高益でも、株価の反応はまるで違う」という現実でした。

  • 三菱重工:実力No.1、ただしPER55倍で期待は織り込み済み
  • IHI:成長性は高いが、利益の質と需給に注意
  • 川崎重工:堅実な多角化企業、過熱感は最も低い

決算は数字を見るだけでは足りません。その好業績が株価にどこまで織り込まれているか(PER)、利益の中身は本物か(質)、需給はどうか。こうした「数字の周辺」まで読むことで、決算の本当の意味が見えてきます。

「良い決算なのに下がった」「すごい数字なのに失速した」。こういうニュースを見たときこそ今回の3つの教訓を思い出してみてください。決算の見方が一段深くなるはずです。