
テクニカルアナリストの向川です。
先日の電線株の決算分析に続いて、今回は銀行株を見ていきましょう。
電線株の決算はこちら
→【電線株】フジクラ、住友電工、古河電工の決算を分析します。AIバブルは続くのか?
さて、先週、3メガバンクの通期決算が出揃いました。結論から言うと、3行とも過去最高益。しかも3行とも揃って純利益1兆円超え。3メガバンク合計の純利益は初めて5兆円を超えました。
歴史的な決算と言っていい内容です。
フジクラ・古河電工・住友電工の電線3社の決算を取り上げましたが、あの3社は「いい決算なのにフジクラだけ売られた」という、対照的な反応が出た決算でした。
今回のメガバンクはその真逆です。3行揃って好決算、3行揃って増益、3行揃って増配。市場の反応も3行とも好感。ではなぜ、メガバンクはここまで揃って好調なのか?分析しましょう。
1. 3行揃って過去最高益、純利益5兆円超え
まず26年3月期の実績を並べます。
| 銘柄 | 純利益 | 前期比 |
|---|---|---|
| 三菱UFJ(8306) | 2兆4,272億円 | +30% |
| 三井住友(8316) | 1兆5,829億円 | +34.4% |
| みずほ(8411) | 1兆2,486億円 | +41.0% |
| 3行合計 | 約5兆2,587億円 | 初の5兆円超え |
伸び率トップはみずほの+41%。規模トップは三菱UFJで、メガバンク史上初の純利益2兆円台。三井住友も+34.4%と大幅増益です。
ポイントは「3行揃って」という部分です。電線3社のように一部の銘柄だけが特別に強かったわけではなく、業界全体が押し上げられています。
これには明確な理由があります。
2. 好決算の正体は「金利のある世界」への回帰
3行揃って好決算になった最大の理由は、国内の金利上昇です。
日銀が2024年3月にマイナス金利政策を解除して以降、日本は「金利のある世界」に戻りました。各銀行の金利も上昇し、銀行の主力事業である「預金で資金を集めて、それより高い金利で貸し出す」というビジネスモデルが復調。
つまり、銀行のビジネスモデルそのものが追い風に乗っているわけです。これが3行揃って増益になった最大の要因です。
これに加えて、M&Aや成長投資で企業の資金需要が増えたこと、円安による海外利益の押し上げ、株式・債券引き受けなど手数料ビジネスの好調なども、業績を押し上げ。
電線3社が「AIデータセンタ需要」という業界全体の追い風を受けて好調だったのと構造は似ています。違うのは、AIブームが新興のテーマであるのに対し、金利上昇は「本業の復活」だという点です。
3. 来期予想も3行揃って増益見通し
決算で大事なのは実績だけではありません。来期予想がどうなっているかが、株価の反応を左右します。
| 銘柄 | 27/3期 純利益予想 | 前期比 |
|---|---|---|
| 三菱UFJ | 2兆7,000億円(目標値) | +約11% |
| 三井住友 | 1兆7,000億円 | +7.4% |
| みずほ | 1兆3,000億円 | +約4% |
3行とも来期も増益見通し。三井住友は「4期連続過去最高益」、みずほは「3期連続過去最高益」を見込んでいます。
電線3社では、フジクラだけが減益予想を出して売られました。今回のメガバンクは3行とも増益予想なので、その意味で「期待を裏切らない決算」だったと言えます。
ただし、伸び率では差があります。三菱UFJの+11%に対して、みずほは+4%。金利上昇の恩恵をどこまで取り込めるか、海外ビジネスや手数料収入をどう伸ばすか、ここで各社の戦略の差が出てきます。
4. 3行の戦略の違い:個人向け金融サービスでの戦い
数字の先にある事業戦略を見ると、3行ともそれぞれ違います。特に「リテール(個人向け)」と呼ばれる領域で、各社の動きが分かれています。
三井住友:「Olive」で先行する大連立戦略
3行の中でリテールで先行しているのが三井住友です。
2023年3月に始めた総合金融サービス「Olive」が、預金口座・クレジットカード・ネット証券をひとつにまとめた使いやすさで顧客数を伸ばしています。さらにSBI証券、マネーフォワード、ソフトバンク(PayPay連携)など、各領域の主要プレイヤーと組む「大連立」戦略で、他社との差を広げにいっています。
2026年5月には個人投資家向けの優待も発表。Oliveアカウント+残高15万円以上の株主にVポイントや定期預金金利優遇を提供するという内容で、株主還元でも目立つ存在になっています。
三菱UFJ:「エムット」で自前経済圏
三井住友を追うのが三菱UFJです。
2025年6月に新ブランド「エムット」を立ち上げ、三井住友の大連立に対して「自前の経済圏」を構築しようとしています。布石として、ロボアドのウェルスナビ、後払い決済のカンム、家計簿アプリのマネーツリーを買収。グループ内に組み込んでサービスの厚みを増しています。
約94兆円という圧倒的な個人預金量を活かしながら、リテールでどこまで巻き返せるかが今後の焦点です。
みずほ:楽天連携で巻き返し
3行の中ではリテールで後手に回っていたみずほも、楽天グループとの提携を軸に巻き返しを図っています。
2024年12月に「みずほ楽天カード」の提供を開始。楽天証券との「職場つみたてNISA」も計画されており、みずほの法人顧客網と楽天経済圏を組み合わせた展開を進めています。
3行とも預金獲得競争に必死、ということです。
そして次の主戦場は中小企業向けサービスに移りつつあります。三井住友はデジタル金融サービス「Trunk」を開始、みずほはAI与信のUPSIDERを子会社化。テクノロジーを使った中小企業向けサービスで、誰が勝つかが次の数年の業績を左右しそうです。
5. 3行のポジションを整理する
決算と事業戦略をまとめると、3行のポジションはこうなります。
三菱UFJ:規模と総合力の「王道」
純利益2兆円超え、個人預金94兆円、海外展開も最大規模。「メガバンクの王者」のポジション。リテールでは後発でも、規模の力でじわじわ追い上げる。安定性と総合力で選ぶならここ。
三井住友:攻めの「挑戦者」
Oliveで先行、優待新設、6期連続増配。3行の中で最も「攻めている」のがここ。配当性向40%維持、株主還元にも積極的。成長と還元の両方を取りに行く戦略が明確です。
みずほ:再評価フェーズの「巻き返し銘柄」
伸び率トップ+41%、初の純利益1兆円超え、5期連続増配。長く「3番手」と言われてきたみずほが、ここに来て構造改革の成果を出し始めている。電線3社で言えば古河電工に近い、再評価が進んでいるポジションです。
6. 今回のメガバンク決算から学べること
決算を見ると、いくつか整理できることがあります。
「業界全体の追い風」と「個社の事情」を切り分ける
メガバンクにとっての金利上昇は業界全体に効く追い風です。こういう追い風が吹いているときは、業界の中で1社だけ買うより、複数社を見比べて「相対的にどこが強いか」を判断するほうが、判断の精度が上がります。
株価の織り込み度に注意
急落したフジクラのように、追い風を「先取りして」買い上がられた銘柄は、決算で少しでも期待を下回ると大きく売られます。
一方、メガバンク3行は過去1年で大きく上昇してきたとはいえ、まだPBR1倍前後のところもあり、株価の織り込み度はそこまで極端ではありません。だから決算後も素直に買われやすい。
「同じテーマでも、株価がどこまで織り込んでいるか」で、決算後の反応はまったく違ってきます。これは投資判断の基本です。
業界が変わる節目を見逃さない
日本の銀行業にとって、「金利のある世界」への回帰は、20年以上ぶりの構造変化です。マイナス金利の時代に縮こまっていた本業が、ようやく普通に儲かるようになった。
業界の「常識」が変わる節目では、その業界の銘柄全体が再評価される動きが出ます。今のメガバンクは、まさにその局面にいます。
まとめ
3メガバンクが揃って過去最高益、純利益合計5兆円超えという歴史的な決算でした。
- 三菱UFJ:規模と総合力の「王道」、純利益2兆円超えのメガバンクの盟主
- 三井住友:攻めの「挑戦者」、Olive・優待・連続増配で株主還元にも積極的
- みずほ:再評価フェーズの「巻き返し銘柄」、伸び率トップで構造改革の成果が出始めた
メガバンクは「業界全体が押し上げられた決算」と言える内容でした。
決算は単独で見るのではなく、業界全体の追い風と、個社の事情と、株価の織り込み度。この3つをセットで読む。今回のメガバンクと電線3社の比較は、その意味でもいい教材になりました。

