
テクニカルアナリストの向川a.k.aチャートの向こう側です。
前回、半導体株シリーズを作ったので、次は防衛株を解説します。半導体より防衛の方がなんとなくイメージしやすいとは思いますが、それぞれ銘柄ごとに強みや特徴が違います。
防衛は「国の守り」という、私たちの平和な暮らしに直結する超重要な分野。そして、そこには日本の技術力の粋を集めた、巨大なモノづくり企業が存在します。
「なんだか難しそう…」なんて思うかもしれませんが、それぞれの会社の得意分野や強みを知ると、日々のニュースの見え方もきっと変わってきて面白いですよ。
第1弾となる今回は、まさに日本の防衛産業の「背骨」を担う、超重要な主力メーカー4社を解説します。
では、防衛の世界を見ていきましょう。
①三菱重工業 (7011) 日本の防衛を全て担う「キング・オブ・防衛」
三菱重工業は、日本の防衛企業でトップに君臨し続ける、まさに「キング」と呼ぶにふさわしい企業です。防衛株のど本命中のど本命。
最大の特徴は、陸・海・空すべての分野の装備品を開発・製造できる、国内で唯一の「総合防衛メーカー」であることです。戦闘機、護衛艦、潜水艦からミサイル、ロケット、戦車に至るまで、文字通り日本の防衛の全てを手がけています。
海上自衛隊が保有する「そうりゅう型潜水艦」や、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」など、圧倒的な強み国の安全保障の根幹を揺るがすような大型プロジェクトを常に中心となって率いてきた実績。
それらをまとめ上げる「システム統合能力」が強みで、数百万点の部品から作られる戦闘機や、最先端の電子機器の塊であるイージス艦を1つの兵器として完成させる技術力は頭1つ飛び抜けています。
日本の防衛はこの会社なくしては成り立たないと言えるレベルで、今日解説する他の銘柄と比較しても株価が低いので、資金が少ない方でも買いやすいと思います。
三菱重工はもちろん国内だけでなく海外にも展開しており、次世代戦闘機「GCAP(グローバル・コンバット・エア・プログラム)」ではイギリスとイタリアと共同開発も進めています。
2023年度の売上高は約4.7兆で、うち防衛関連は約3,800億円(全体の10%)。主力はF-X(次世代戦闘機)、たいげい型潜水艦、12式地対艦ミサイルなど。自衛隊向け装備なども作っています。
民間事業では商用ジェットやガスタービン、原子力などのエネルギー事業でも利益を得ています。産業機械、船舶、交通インフラなども。
ここ最近の世界情勢を見ても、防衛セクターは注目されており、防衛予算の拡大が追い風になっています。F-X開発は2028年飛行試験開始に向けて順調に進んでいるようですね。
日本の防衛市場は、政府のGDPの2%目標へ向けて拡大しており、おそらくその流れは加速すると思います。ただ、世界的な防衛企業を見てみると、米国と欧州などはもっとGDPに対しての予算が大きく、日本は出遅れています。
半導体同様に、戦闘機や潜水艦の精密製造においては日本の技術力はトップクラスで、GCAPでも日本が主導するエンジン技術やステルス設計に注目されています。
競合の川崎重工やIHIともすみ分けされており、国内シェアはトップ。意外と防衛売上比率が10%と低いので、もっとあげてもいいんじゃないかと思ったり。エネルギーや航空の市況の変動で影響を受けることも考えられますね。
また、宇宙分野でもAXAと共同開発したH3ロケットや、人工衛星打ち上げシステムの整備などでも中心にいます。国防・宇宙・インフラ開発など、これらの分野は民間には難しく、政府主導の事業領域がメインの主力銘柄ですね。
日本の防衛関連株に投資するなら、誰もが最初に検討する「本丸」中の本丸銘柄。「日本の防衛力強化」という分かりやすい国策テーマに投資できるのが魅力です。
国の政策や国際情勢と連動するため、日々のニュースには常にアンテナを張っておく必要がありますが、今後も注目の銘柄ですね。
②:川崎重工業 (7012) 「潜水艦」と「航空機」に強みを持つ海の守護神
モーターサイクルの「Kawasaki」ブランドで世界的に有名ですが、防衛分野でも非常に重要な役割の川崎重工。
日本の海の守りの要である高性能な「潜水艦」や、広大な経済水域を監視する「哨戒機(P-1)」、そして有事の際に人員や物資を運ぶ「輸送機(C-2)」といった、特定の分野で高い技術力を誇るスペシャリストです。
最大の強みは三菱重工業と並んで日本で唯一、潜水艦をゼロから建造できる技術力を持っていること。
敵に見つからないことが絶対条件の潜水艦を作る技術は、最高の機密技術の塊。この分野を担えること自体が川崎重工の高い技術力の証明で、他にも輸送機など大型の航空機を独自に開発・製造できる能力も大きな武器となっています。
海の防衛もとても重要で、四方を海に囲まれた日本にとって潜水艦による防衛や監視は必要不可欠です。防衛費の増額に伴って、これらの装備品の安定的な受注も期待されています。
2023年度売上は約2.2兆、防衛売上は約2,000億円(全体の15%)。主力はたいげい型潜水艦、P-1哨戒機、C-2輸送機。民間では新幹線や商用航空機部品(ボーイングなど)で安定的な収益を稼いでいます。
オーストラリアやアジア向けの輸出も進んでいたり、民間事業でも鉄道や水素関連が好調のようですね。三菱重工が日本の防衛産業の中心的存在なら、川崎重工はその右腕的な存在と言えるでしょう。
他の防衛株と違った特徴として、防衛関連以外の事業にも広く展開していることが挙げられ、バイク事業(Kawasakiブランド)、鉄道車両、産業ロボット、LNG船など手掛けています。
三菱重工が「オールラウンダー」なら川崎重工は「特定種目で世界記録を狙うアスリート」と言えるかもしれません
「潜水艦」や「哨戒機」など、日本の地理を考えても特に重要となる分野での活躍に期待するなら、投資家目線で見ても面白いと思いますね。
防衛だけでなく次世代エネルギーとして期待される「水素関連事業」をもう1つの柱として育てている点も注目しておきたいです。
③IHI (7013) 戦闘機の「心臓部」を造るエンジンメーカー
次はIHIです。この会社は航空機の「ジェットエンジン」で国内トップ、世界でも有数のメーカーです。
防衛分野では、戦闘機や練習機、護衛艦に搭載されるエンジンの開発・製造を担っており、装備品の「心臓部」を手がける、まさに縁の下の超重要企業。
民間航空機向けエンジンや、H2Aロケットのエンジンも手がける、日本の推進技術のリーディングカンパニーです。
戦闘機の性能、つまりは最高速度や加速力、航続距離などを直接左右するジェットエンジンのことですが、これを自国で開発・製造できる技術力がIHIの最大の強み。日本の防衛技術の根幹を支えています。
航空自衛隊の主力戦闘機であるF-2に搭載されているエンジンも、IHIがライセンス生産し、さらに改良・国産化を進めてきました。
つまり、三菱重工や川崎重工が作る航空機の「体」も、IHIの「心臓」がなければただの鉄の塊で、それほどまでに重要なポジションを占める替えの効かない存在とも言える会社です。
2023年度売上は約1.5兆円、防衛売上は約1,500億円(全体の10%)。主力はF-35用エンジン(F135)、ミサイル誘導装置、無人機システムなど。
民間ではボーイング向けジェットエンジン部品やガスタービンが好調で、24年3月の輸出規制緩和によってエンジンやミサイル部品の海外展開が視野に入ってきました。ここ最近も-35の追加調達や、ミサイル防衛強化などから受注も増加しています。
今、日本の防衛産業は次世代技術として無人機に注力しており、IHIのエンジン技術は欧米の企業にも引けを取りません。
そして、防衛だけでなく、宇宙・航空分野との親和性が高い点も、長期成長という観点では大きな魅力です。特に「次期戦闘機エンジン開発」「長距離ミサイルの推進系」「宇宙関連ニュース」などが出たときは材料になりやすいです。
三菱重工などが装備全体を請け負うのに対して、IHIのような部品・動力系に特化した企業も必要です。防衛においては「地味だが欠かせない」というポジションで、「オンリーワン」の技術に価値を見出すという視点から見ても、日本の防衛株3強の1つと言ってもいいでしょう。
④:三菱電機 (6503) 防衛装備の「頭脳」と「目」を担うハイテク企業
同じ「三菱」グループでも重工が戦闘機や護衛艦という「ハード」を作っているとしたら、三菱電機はレーダーやミサイル、人工衛星、通信機器などの「ソフト」を作っています。防衛省との契約額も常にトップクラスで、日本の防衛をエレクトロニクスの力で支えています。
強みは世界トップレベルの技術力を誇る「誘導ミサイル」と「レーダーシステム」で、飛んでくるミサイルを探知・追尾する地上レーダーや、戦闘機に搭載される高性能な空対空ミサイルで国内で圧倒的なシェアを誇ります。
現代の防衛に不可欠な「電子戦」や「ネットワーク戦」の分野で、中心的な役割を果たしているのです。
現代の戦争は個々の兵器の性能だけでなく、それらをネットワークで繋いでリアルタイムに情報を共有し、一体となって戦う「ネットワーク中心の戦い」へとシフトしており、ミサイル防衛網の強化や、敵の通信を妨害したり、サイバー攻撃から守ったりする電子戦能力の向上は、日本の防衛政策の最優先課題です。
ここがまさに三菱電機の得意分野であり、今後の需要拡大が大いに期待される領域です。
2023年度売上は約2,500億円、防衛売上は約250億円(全体の10%)。主力は10式戦車の砲身、155mm榴弾砲、ミサイル部品など。民間ではEV向けのプラスチック成形機や鋼材が好調のようです。
「鉄やエンジン」などのメイン産業とはちょっと違う、「ハイテク・サイバー・宇宙」といった視点から防衛株を見るとき、この三菱電機が最適な選択肢の1つと言えます。
ミサイル防衛や、宇宙空間の利用、サイバー防衛など、引き続き超重要テーマです。未来の安全保障を担う技術に魅力を感じるなら、見ておきた銘柄の1つですね。
まとめ:日本の技術の結晶!それぞれの得意分野で国を守る。
さて、今回は防衛企業4社を解説しました。
陸海空の全てを手がける「キング」 三菱重工業
潜水艦など特定分野の「スペシャリスト」 川崎重工業
装備品の心臓部を造る「エンジン屋」 IHI
ハイテクな頭脳と目を担う「電子の盾」 三菱電機
とも言えると思いますが、どれも中心銘柄です。同じ防衛関連といっても、それぞれが全く違う得意分野を持ち、お互いに連携しながら日本の守りを固めている、という関係性が見えたかと思います。
防衛産業は、国の政策と直結しているため、少し難しいイメージがあるかもしれませんが、その技術は私たちの平和な暮らしを守るために日夜研究されている、日本の「ものづくり」の最先端です。
普段のニュースで語られる国際情勢や新しい技術の話が、少しだけ自分事として捉えられるようになるかもしれません。ぜひ参考にしてくださいね。